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富良野市のワイナリーで働くまでワインを買ったことがなかった!?ふらのワインのため「知らない」を探究し続けるワケとは。

今回は今年50周年を迎えた富良野市ぶどう果樹研究所から、製造課長 高橋 克幸(たかはし かつゆき)さんのインタビューです。
前回のふらのワインぶどう祭り体験記で取り上げたふらのワインについて深掘りすべく、ふらのワインを醸造する研究所の歴史を紐解いていくと、この50年は挑戦の連続であったことが分かりました。そしてその挑戦の裏には高橋さんのストイックな探究心による取り組みがあり、これからの挑戦も支えていくことがうかがえます。

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富良野市ぶどう果樹研究所
ふらのワインを醸造している富良野市ぶどう果樹研究所は国内では珍しく自治体が管理運営するワイナリー。原料の栽培から醸造、販売までを富良野市内で一貫して行っています。
富良野地方の気候風土と土地条件がワインの本場・ヨーロッパに似ており、原料ぶどうの育成に適すると立証されたことから、農業振興を目的としてワイン用原料ぶどうの栽培に取り組むため、1972年に富良野市がこの研究所を設置。山ぶどうを中心に生食用ぶどうを原料にふらのワインの醸造試験が開始されました。
技術者たちの熱心な研究や地元富良野の方々の協力により生まれたふらのワインは今年50周年を迎えます。


1.食事に合うワインを追い求めた50年


ーふらのワインの特徴を教えてください。

「この研究所がスタートした当初から食事に合うワインを作ろうという考え方があります。ですのでどちらかというと甘口よりも辛口が多いことが特徴になります。
幅広い方々に飲んでいただくワインを目指しているので、赤と白それぞれのワインに使っているぶどうは、色や味が濃いといった特徴が比較的出にくいセイベルという品種を使っていて、バランスの取れた飲みやすいワインになっています。渋さや酸味も少なく、比較的口当たりが柔らかく香りもフルーティーです。
他にも工夫がありまして、ボトルのラベルデザインを見てください。実は観光客向けにちょっとした細工があるんです。ラベンダー畑の写真がプリントされたラベルの右上に紫色の丸があるんですが、ここにラベンダーの香りが入ったカプセルがしみ込んでいて、軽く擦るとラベンダーの香りがします。お土産に渡して富良野に来た気持ちになってもらえたらと思っています。」

ラベル右上の紫色の丸がラベンダーの香りがする部分


ー赤・白・羆(ひぐま)の晩酌、それぞれに合うおすすめの料理はなんでしょうか?

「赤と白に関してはそこまでこだわりを持たなくてもいいのかなと思っています。よくお肉には赤ワイン、お魚には白ワインと言いますけど、必ずしもそうではなくて、どちらのワインと味付けが馴染むかなんですよね。
お醤油など味の濃いものは赤、塩やレモンをかけてさっぱりいただくような食べ物なら白がいいですね。焼き鳥を例にとると、タレは赤で、塩は白。色々と試してみると良いと思います。
羆の晩酌は見た目も名前も個性的ですよね。このワインに使用しているのは研究所で開発した山ぶどうの交配品種である“ふらの2号”です。北海道のワインとしては味がしっかりとした赤ワインなので、焼肉やジンギスカン、ジビエ料理と特に相性が良いです。意外なところではウスターソースを使う料理、例えば焼きそばやたこ焼き・お好み焼きといったフルーツ系ソースが使われている料理とも相性が良いのでおすすめしたいです。」

ファンの多い「羆の晩酌」


2.ふらのワインの歴史は挑戦の歴史


ーふらのワインは今でこそ富良野市民の生活に溶け込んでいますが、当初からワインは身近なものだったのでしょうか?

「ふらのワインが初めて発売されたのは研究所設立から6年後の1978年なんですね。当時はまだ珍しい飲み物だったので発売当時の記事などを見ると、お店にズラッと人が並んだそうです。
そこから少しでも市民の方々に飲んでいただくための取り組みとして、富良野市内の限定販売かつ市民しか入手できない市民還元ワインというものを作っていたんです。2000年くらいまでは市民還元ワインを一世帯に一本を無償で配って、さらにワイン12本を安く購入できるチケットを作ったりと、市民の方々に飲んでいただく取り組みをずっと継続してきました。そういった取り組みの中で少しずつ飲む人が増えてきたということなんです。
今現在、市民還元ワインはかたちを変えてオリジナルワインという名前で富良野市内限定で通常よりもお安く販売しています。
その他にも市内限定販売のワインはアイスワインやスパークリングワイン、新酒富良野などたくさんあります。新酒富良野は11月の第三水曜日に発売するんですが、ボージョレ・ヌーヴォが第三木曜日に発売なので、富良野市民は一日早く新酒を楽しみましょうということで行っています。」

ふらのスパークリングワイン「ペルル・ブランシュ」


ーこちらの研究所では原料の栽培から醸造、販売までを富良野市内で一貫して行っていらっしゃいますが、最初から順調に進んだのでしょうか?

「まったく順調ではなかったと思いますよ。始まりはぶどうを植えたことがない人たちが、いきなりぶどうを植えるところからだったんです。なのでぶどうの管理方法が分からなければどう枝を伸ばしたらいいのかも分からない。そんな状況で試行錯誤しながら今のぶどうの仕立て方に行き着いてるんです。それは当時の先輩方が作り上げた技術なんですよね。
そこから新しいぶどうの品種や新しいワインを作ったり、常に挑戦をしながら新たなものを作り続けてきた流れで今があると思っています。」

ふらのワイン工場内の売店で販売されるさまざまな種類のワイン


3.ストイックな探究心がもたらしたもの


ー高橋さんがこちらの研究所にいらっしゃった経緯を教えてください。

「この研究所に来たのは2000年4月ですね。私は生まれも育ちも北海道の岩見沢市でして、それまでは富良野市に縁もゆかりもありませんでした。
大学院で酵素の研究をして、卒業後は群馬県にある醤油メーカーの研究所で発酵にかかわる研究を4年ほどしてたんです。
ただ北海道で生まれ育った人間にとっては暑さが過酷で(笑)
他にも将来のことを考えたら、地元北海道で醸造の技術を生かして再就職したいなと思い始めたんです。そんな時、富良野高校出身の大学時代の指導教官から『富良野市で醸造技術者の募集があるから受けてみないか』と言われて、ワインもお醤油も醸造技術なので、これまでの経験が活かせそうだなと思って公務員試験を受けました。
富良野市に来るまではワインを自分で買って飲んだこともないし、もちろんワインにも初めて触れることになります。普段お酒を飲まない自分がアルコールを作る仕事に就くなんて思ってもいませんでした。」

ワイン樽の解説をされる高橋さん


ー名刺にたくさんの資格が記載されていらっしゃいますが、いつ取得されたんですか?

高橋さんが持つ資格
・(社)日本ソムリエ協会認定 シニアソムリエ
・葡萄酒技術研究会認定 エノログ
・札商認定 北海道フードマイスター
・日本土壌協会認定 土づくりマスター

「すべて研究所に来てから取りました。私は知らないことがあるのがいやなんですよ。農家さんから『こんなことで困ってるんだけど、、、』と相談された時に『ちょっと分かんないです』って言いたくなくて。自己満かもしれないけど、聞かれたら即答できるくらいの知識を身に付けておきたいんです。
ワインを作っていると食べ物とのマリアージュについてもよく聞かれるので、ソムリエやフードマイスターの資格を取って食材の特性を覚えるようにしましたし、エノログというのは醸造管理をする人ですね。
土づくりマスターについては、私が畑の生育状況を見たり、農家さんへの指導を行うようになった時に、地上に出ている部分の管理を中心に色々とやってみたんですがなかなか良くならなかったり、目立った成果が出なかったんです。『地上がダメなら地下だな』と思って、そこから土のことを勉強し始めたんです。勉強したことを現場に応用したら急にうまくいくようになって、確実にぶどうの収量や品質が良くなってきたんですよね。
でも知らないことはまだまだいっぱいなので、やれることはこれからもたくさんあると思っています。」

もうすぐ収穫を迎える9月のぶどう畑


ー市外の方がふらのワインに触れられる機会は多くあるのでしょうか?

「道外では現在4ヶ所の物産展に出展してますが、なかなか見る機会はないんですよね。なのでワイン会をやってもいいよと言ってくれるレストランがあればワインセミナーを開いたり、ソムリエつながりで都内でワイン会を行ったりしています。十数人規模と小さいですが、参加された方々の口コミが広がって、ふらのワインのおいしさが地道に広がっていけばいいなと思っています。

イベントを行うと、ふらのワインは結構好評です。『こんなに良いワインがあるんですね』と、たくさん注文してくれる方もいらっしゃるんです。
あるイベントで“羆の晩酌”の大ファンという方がワインを作っている本人に会いたいからと、遠方から参加してくださったんです。『このワインを作っている人に会えるなんてすごく嬉しい』と喜んでもらえて、私もすごく嬉しくなりましたね。
私は割とフットワークが軽いので、営業的な立場として出歩いたりすることもよくあるんです。その中で少しでもふらのワインのファンを獲得できたらなと思っています。」


ふらのワインの返礼品はこちら


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